介護・福祉分野でも取り入れられている園芸療法

植物を育てたり、鑑賞することで、「パワーをもらえる」と感じることはありませんか?
こうした花や植物の力を、医療・福祉に活用していくという考え方のもとで展開されているのが園芸療法です。
日本では1990年代の初め頃から一般的に知られるようになってきました。
この園芸療法では、土の香りや新緑の鮮やかさ、成長を楽しむ気持ちなど、五感が刺激されることによって心に癒やしが得られるとされています。今回はそんな園芸療法をご紹介いたします。

園芸療法とは

著名な研究者によって提唱されたバイオフィリア仮説というものがあります。
バイオフィリアとは「生物とすべての生きているものに対する情熱的な愛」、つまり人は生まれながらに自然や動植物を好み、自然や植物とのかかわりの中でストレスが軽減すると考えられているのです。
植物を育てることは、土づくり、水やり、日照、間引きなど適した環境を整える手間がかかります。しかし、手がかかることで愛着が湧くとも言えます。
手間がかかることを時間をかけて楽しむことが一つの「健康」であり、ご本人の生活の質(QOL)を高める活動にもつながっていきます。
園芸療法の対象は、児童から成人・高齢者まで、疾患や障がいを問いません。
近年は、認知症、うつ病、生活習慣病などの予防の観点から、特に病気を抱えていない未病の人も対象となっています。
知的障害、精神障害、身体障害をもっている方、加齢により日常生活に困難を来たしている方、更正を必要としている方、薬物依存などで社会生活に支障を来たしている方などを対象に、多くの施設・病院・在宅で行われています。

園芸がもたらす効果

園芸作業の過程の中には、歩く、座る(しゃがむ)、立ち上がる、たがやす、水をやる、草をとる、収穫する、運ぶ、洗う…など多種多様な動作が発生します。
そのため、身体面でも運動能力や体力の維持やその増進に効果が期待できます。
そして、精神面においても、芽が出た、花が咲いた、実がなった、種が取れた、という満足感や達成感を感じられる場面が数多く存在しますし、香りや色彩を楽しむことで気分転換やストレス解消になったり、毎日成長を見守ることで思考力や想像力の向上、記憶力の改善などの様々な効果が期待できます。
今後園芸療法はさらに様々な疾患や障害に対する健康法として広がっていくことが予想されます。

園芸がもたらす五感の刺激
✅視覚 葉や花、実の色彩や、植物の成長を目で見て感じる
✅触覚 植物や土の感触、水の冷たさを感じる
✅嗅覚 土の匂い、花の香り、野菜の匂いを感じる
✅聴覚 自然の中から聞こえる鳥のさえずりや虫の鳴き声、雨音を聞く
✅味覚 収穫した野菜やハーブの味を感じる

園芸療法の主な目的
✅生きがいづくり(収穫の楽しみ)
✅運動不足の解消、健康増進
✅外出機会の創出
✅社会性の維持(仲間とのコミュニケーション)
✅生活能力の維持(収穫後の調理)

多様な選択肢

自宅の庭において園芸が難しい方は、市民農園やシェア畑といったサービスを活用することができます。仙台市でも、一部の農家さんが、市民向けに貸し農園(レクリエーション農園)を開設しており、年間約1万~3万円ほどで区画を利用することができます。

また、そこで何を育てるのかを考えるのも楽しみの一つです。
たとえば昔、育てたことがある植物や野菜など馴染みのあるものを選ぶ、誰もが知っていて一目で品種がわかるチューリップやひまわり、コスモスなどを選ぶ、花が大きく色鮮やかで濃い色の品種を選ぶ、芳香を楽しむために香りの強い植物(ハーブ)を選ぶ、収穫して食を楽しむために野菜やハーブを選ぶ…このように目的によって、選ぶ植物や野菜を変えることができます。

どうしても外に出ての園芸が難しい方は、観葉植物を育てるという選択肢もあります。室内に観葉植物を設置することで、空気清浄効果があるとも言われ、目に優しいグリーンの色合いは心を安定させる効果を持つ色です。

育てやすい観葉植物として、よくモンステラ、サンスベリア(サンセベリア)、ガジュマル、パキラ、ポトスなどが挙げられます。これらの観葉植物は、耐陰性、耐寒性が比較的高く、初心者や高齢者でも育てやすい品種です。
植物に水をやり、太陽を浴びせ、その成長を楽しむことで日々の生活の中にリズムが生まれ、季節感を感じる瞬間が増えます。また、軽い運動にもつながりますから、ぜひ日常の中に園芸を取り入れてみてくださいね。

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