高齢者とポリファーマシー

加齢に伴い、病気のリスクは高まりますから、複数の病気を抱えている高齢者は少なくありません。そして、その治療のために何種類もの薬が一緒に処方されます。そんな時に心配なのが「ポリファーマシー」です。今回は、このポリファーマシーについて解説していきます。

ポリファーマシーとは?

「複数」を意味する「poly」に「調剤(薬局)」を意味する「pharmacy」を合わせた造語です。
単に薬剤数が多いだけではなく、薬が複数あることに起因した薬物有害事象につながる状態や飲み間違い、残薬の発生につながる問題、さらに、不要な処方や過量重複投与など、あらゆる不適正処方も含み、一般的に「害のある多剤服用」という意味で用いられています。

何種類以上の薬を飲むとポリファーマーシーと呼ばれる状態なのかは、定義がありません。
薬の飲み合わせや、病態、環境によって個人差がありますので、あくまで多剤服用によって問題が引き起こされている状態を指します。

高齢者と薬

東京都健康長寿医療センター研究所などの研究グループが2020年2月に発表した高齢者の多剤処方に関する論文によると、75歳以上の高齢者において、その4割が5種類以上の薬を服用しており、薬の種類が6種類以上になると、副作用を起こす人が増える傾向にあるそうです。

服用した薬が体内で効き目となって現れるまでには、食道から胃を経由し、やがて小腸で吸収され、小腸を取り囲む血管に入り、肝臓を通り、血流にのって全身をめぐり、患部に届き、細胞の表面にあるたんぱく質である「受容体(じゅようたい)(レセプター)」と結合して細胞の反応を引き起こすという流れがあります。
通常、薬は肝臓で分解され、腎臓から尿として体外に排泄されますが、加齢によって唾液分泌や食道の運動性が低下している高齢者では、薬が口腔内や食道に付着し、口腔内・食道潰瘍や誤嚥性肺炎などを引き起こす原因となりかねません。
また、肝臓や腎臓の機能そのものの低下も絡んで、薬を分解・排泄する力が弱くなり、薬が体内に長く留まるようになるため、薬の効果が必要以上に持続する、あるいは効きすぎてしまうといった影響が出ることがあります。

もう一点、高齢者に起きやすい副作用として、ふらつきや転倒があります。これは、筋力や感覚機能の低下によって、筋弛緩作用のある薬や、降圧薬のようなめまい・ふらつきが起きやすい薬を服用した場合に身体を支えきれずに転倒するといったケースです。
高齢者は骨そのものも弱くなっているため、転倒をするということは骨折や寝たきりになるリスクをはらんでいます。

ポリファーマシーを回避するには?

ポリファーマシーを回避するためにも、薬の種類が多すぎる場合には優先順位を考え、薬を減らすことが望ましいと言えます。
その際は、必ずかかりつけ医に相談し、判断を仰ぐようにしましょう。
決して自己判断で服用を中止してはいけません。なぜならば突然服用を中止することで、元の疾患が悪化する可能性があるからです。
持病が増えると、それぞれ通院する科が変わるため、外来でかかる病院も複数になってしまいがちです。そしてそれぞれから処方される薬で薬剤数が増えてしまいます。
お薬手帳の利用も、医療機関ごとに分けず、服用している薬について情報共有を行い、適正に使用するようにしましょう。

薬を処方する医師や、調剤をおこなう薬剤師などをはじめとし、医療に関わるそれぞれの専門家が連携し、患者の情報を共有することで適正処方を心がけ、ポリファーマシーの解消に向けて一緒に取り組むことが重要です。



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