健康を左右する口腔ケア
身体機能は、年齢を重ねるとともに徐々に衰えていきますが、口腔機能も例外ではありません。
自分でケアをするのが難しい口腔内は、様々な病気のトラブルが潜んでいます。
特に寝たきりの方や歯科医院への通院が難しい方にとって心強い味方となるのは歯科医による「訪問歯科診療」です。
今回はこれらの高齢者の口腔ケアについて、説明します。
よくある口腔トラブル
高齢になると、唾液の分泌は減少する傾向があるため、口腔内の細菌が繁殖しやすい状態になってしまいます。そのため、ケア不足によって口の中が汚れていると、口腔内の環境はますます悪化する可能性があります。
これらは虫歯や歯周病の原因になるだけではなく、カンジダ症といった粘膜の感染症を引き起こすこともあります。高齢者に多い口腔トラブルは以下の通りです。
✅義歯(入れ歯)の手入れ不足
義歯を装着しているということは、すでに虫歯や歯周病などを有しているケースも多いかと思います。清掃状態が良くない不潔な状態の義歯を装着すると、虫歯や歯周病がさらに進行していく可能性があります。
また、義歯に覆われた口腔粘膜に炎症や浮腫が生じたり、不顕性誤嚥(むせない誤嚥)により病原菌を体に取り入れてしまったりする危険性も高くなります。
✅舌苔(ぜったい)の蓄積
舌苔とは、舌の表面にある凸凹な舌乳頭に付着した苔のようなものです。
その正体は古くなった口の中の粘膜や、食べ物のカスなど汚れが集まったもの、様々な細菌であると考えられ、タンパク質を多く含んでいます。
これは珍しいものではなく、子どもから大人まで誰にでも見られるものですが、口腔機能が低下し、セルフケアが難しくなる高齢者は、この舌苔が分厚くなってしまうことがあるのです。
舌苔はタンパク質を多く含んでいるために、口臭が強くなる傾向があります。
また、舌には味を感じる「味蕾(みらい)」というセンサーがあります。
味蕾の大部分は舌乳頭にあるため、舌苔に厚く覆われると味を感じにくくなってしまいます。
味を感じにくくなることで、味付けを濃くしてしまうと塩分の取り過ぎにつながりますし、そもそも食欲が失われてしまうと必要な栄養素が足りなくなってしまいます。
✅誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)
口から摂取された食べ物は、口腔内で咀嚼された後、飲み込まれて食道内へと入り、胃へと運ばれます。このように、食べ物を口の中から胃へと運ぶ動作は「嚥下」と呼ばれ、通常は意識せずに行われる動作です。加齢とともにその機能は低下していきます。
嚥下機能が低下すると、食べ物や唾液、細菌などが誤って口から気管に入ってしまうことがあります。これが誤嚥です。
加齢に伴う口腔機能の低下によって唾液量が少なくなると、口の中の細菌が増え、誤嚥した際、一緒に細菌が気管や肺に入ってしまうことで「誤嚥性肺炎」を発症することがあります。
この他、口腔内が十分清潔に保たれていない場合、肺炎の原因となる細菌がますます繁殖し、リスクがさらに高まるのです。
訪問歯科診療
訪問歯科診療は、「通院困難な方」を対象に、歯科医や歯科衛生士が自宅、高齢者施設等に赴いて治療をおこなう仕組みです。
診療内容は一般的に外来で行われるものと同じですが、治療時の姿勢保持や照明などの制約があるため、治療内容によっては診療所で受診することが必要な場合もあります。
要介護の高齢者は、体が不自由なことや移動手段の問題で通院できない人がたくさんいます。
こうした体に障害があったり、病気を持っている人ほど口腔ケアを行いにくく、治療が必要な状態になりやすいのです。
義歯の不適合や虫歯に伴う歯の痛み、歯ぐきの腫れ、口内炎などは対応可能です。
まとめ
口腔は食事や会話、容姿といった人と人とのつながりや言語、非言語的コミュニケーションに欠かすことができない重要な役割を担っています。
そしてその機能が低下することによって食べられる種類や量が制限され、栄養のバランスがとりにくくなると、免疫や代謝といった機能の低下から病気にかかりやすくなることにもつながります。
「食べる」「話す」といった機能は毎日使うもので、その低下を本人が気づくことはとても難しいことです。普段の歯磨きでも、歯ブラシや舌ブラシのほか、口の中の状態に合わせて使い捨ての口腔ケア用のスポンジ、綿棒、口腔ケア用ティッシュなどを使用しながら、できる限り口腔内を清潔に保てるように努力しましょう。