親の介護は放棄できるのか?扶養義務と法的責任について解説

更新日:2024.04.16

ニュースなどで「育児放棄」という言葉を耳にすることがありますが、高齢化社会に伴い「介護放棄」も問題になっています。介護放棄とは、「介護を必要とする人(被介護者)のケアをしないこと」を指し、虐待の一種として育児放棄と同様に「ネグレクト」と呼ばれることもあります。
今回はこの介護放棄について解説していきます。

介護放棄

介護を必要とする人に対して、そのケアをしないことが介護放棄にあたりますが、具体的に介護放棄とみなされる行為には、以下のようなものがあります。

✅食事を十分に与えない
✅汚れたおむつを交換しない
✅入浴させない
✅部屋を掃除しない
✅医療機関を受診させない
✅存在を無視する

これらの行為が初めから意図的である場合、徐々にエスカレートしていく可能性があります。
一方で、これくらいは自分でできると思っていた、などの理由から被介護者へのケアをおろそかにし、意図せず介護放棄の状態になっているケースもあります。
どちらにせよ、認知機能の低下等によって実態をうまく伝えられない被介護者に代わり、第三者が気付いてあげなければ発覚しないことも多く、注意が必要です。

扶養義務という課題

「介護放棄」は「扶養義務」と密接に関係しており、法律上、子どもは親の介護を放棄できません。
具体的な根拠は、民法第877条第1項に「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定められているためです。
直系血族とは、祖父母・父母・子・孫のことを指します。
また、夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならないと民法第752条で定められているため、配偶者も扶養義務者に該当します。

この「互いに扶養をする義務」には、直接的な介護だけでなく、介護費用や生活費などの経済的支援も含まれます。扶養義務は相続放棄のような扱いができないため、原則として「親の介護をしない」という選択はできないのです。

一方、年齢や同居の有無などによる、扶養義務者の優先順位は定められていません。
もし、介護を必要とする親に2人の子ども(長男・次男)がおり、長男が別居、次男が同居していたとしても、2人には平等に扶養義務があります。
そのため被介護者と扶養義務者間で実質的な介護負担や金銭面での負担の割合をどうするか、早めに話し合いをして決めておくことが、のちのもめごとを減らすことにもつながります。

金銭面の問題による介護放棄

介護放棄で多いケースが、経済的貧困によるものです。被介護者と介護者が双方経済的に困窮している場合、生活保護の審査を受けることを検討してみるのも一つの手です。
以下の条件を満たしている場合に、生活保護を受けられる可能性があります

✅世帯収入が基準に満たない
✅現金化できる資産を所有していない
✅高齢や障害などのやむを得ない事情で、働いて収入を得られない
✅ほかの制度による支援を受けても最低限の生活費が確保できない
✅生活の援助をしてくれる親族がいない

介護費用の負担は、公的制度により軽減できる場合があります。また、居住地域の自治体独自の助成制度も存在することがあります。

介護放棄が罪に問われる可能性

介護の必要性を理解したうえで親の介護を放棄した場合、「保護責任者遺棄罪」に問われる可能性があります。この罪には、3カ月以上5年以下の懲役が科されることがあります。
ただし扶養義務は、あくまでも介護者が経済的に困らない範囲内で発生するものとされており、介護者が経済的に困窮している場合などを含む、すべてのケースで罪に問われるわけではありません。

また、介護放棄の結果、親が死亡したりケガをした場合、「保護責任者遺棄致死罪」や「保護責任者遺棄致傷罪」に該当することもあります。それぞれの罪には、3年以上20年以下、または3カ月以上15年以下の懲役が科される可能性があります。

まとめ

親の介護は重大な責任であり、法的な側面からも真剣に向き合う必要があります。介護者は、扶養義務や法律問題について理解し、適切な対処方法を検討することが大切です。

自分たちで介護をすることが難しい場合には、施設を頼ることも選択肢の一つです。介護サービスを利用するか、介護施設への入居を検討する際には、被介護者本人の意向を尊重しながら選択肢を検討しましょう。また、民間介護保険の活用も視野に入れてみてください。

この記事は、2024年04月16日に更新されました。
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