加齢による睡眠の質の変化
一般的に加齢とともに「睡眠の質」は変化すると言われています。
病気もなく健康な高齢者でも、睡眠は浅くなり、中途覚醒や早朝覚醒といった現象が起こります。また、高齢者に多い疾患の影響も伴って、不眠や睡眠障害を訴える方も多く見られます。
今回は、そんな高齢者の睡眠の特徴と睡眠障害について解説していきます。
睡眠の変化
若年者と高齢者の睡眠を比較すると、高齢者は早寝早起きの傾向にあります。
もちろん、若年者も仕事のため早寝早起きをする方は多くいらっしゃいますが、目覚ましをかけて眠くても起きる!という形ではなく、自然に早寝早起きとなるのです。
これは体内時計の加齢変化によるものと考えられており、血圧や体温、ホルモン分泌など睡眠に深くかかわる生体機能リズムが関係します。
ですから、高齢者の早朝覚醒自体は自然の流れであり、病気ではありません。
そして、睡眠が浅くなることも特徴です。睡眠脳波を調べてみると、深いノンレム睡眠が減り、浅いレム睡眠が増えるようになります。そのため尿意やちょっとした物音などでも何度も目が覚めてしまうようになります。
これは加齢により基礎代謝が低下することで、睡眠で補うべきエネルギー量も減り、必要な睡眠時間が短くなるためです。睡眠を促すホルモンであるメラトニン分泌量も、加齢とともに減少することがわかっています。
しかし、途中覚醒が多く、眠りが浅いと寝床に入っている時間は長くても実際の睡眠時間は若年者に比べて短く、睡眠の満足度も低下すると言われています。
高齢者に多い睡眠障害
高齢者は定年で退職をしたり、配偶者や兄弟との死別、高齢になってからの独居など、気付かないうちに心理的なストレスを抱えていることが多くあります。
そこから気力や体力の低下が起き不活発でメリハリのない日常生活、こころや身体の不調、その治療薬の副作用などによって、不眠症をはじめとするさまざまな睡眠障害にかかりやすくなってしまいます。
加えて高齢者に多い狭心症や心筋梗塞による夜間の寝苦しさ、前立腺肥大による頻尿、皮膚掻痒症によるかゆみ、関節リウマチによる痛みなど不眠になり得る要因が加齢とともに増えていくのです。
それ以外にもうつ病や認知症、アルコール依存症などの高齢者罹患率は高く、これらの精神疾患でも睡眠障害が生じることがあります。
認知症患者の睡眠
認知症に罹患した高齢者は、同年代に比べてもさらに睡眠が浅く、さまざまな睡眠問題がみられるようになります。
重度の認知症の方では、1時間程の短時間でも連続して眠ることができなくなるといわれているのです。
認知症で見られる症状のひとつに、昼夜逆転という症状があります。
これは、昼間の短時間睡眠が増える一方、夜間は眠れずに覚醒してしまう不規則な睡眠・覚醒リズムに陥っている状態です。
またしっかりと目が覚めきれず「せん妄」といわれる意識精神状態がしばしば出現することもあります。せん妄が起きると、不安感から興奮しやすくなり、攻撃的な状態になることもあります。
その他にも夕方から就床の時間帯に徘徊や興奮、奇声といった異常行動が目立つ日没症候群という症状が出る方もいます。これも睡眠・覚醒リズムの異常が関係していると考えられています。
残念ながら、認知症患者の睡眠障害に有効な薬物療法はいま現在確立されていません。できうる対策として、なるべく日中に刺激を与えて覚醒の状態を保ち、夜間睡眠の妨げになる要因を避けることが挙げられています。
睡眠との付き合い方
これまで見てきたように、睡眠の質の変化は加齢に伴って起こる自然なものもあれば、病気や薬の作用、認知症の影響など様々な要因があります。
人間の基本的欲求でもある「睡眠」は生命維持に欠かせない重要な役割を持ちますから、不眠や眠気はその原因を突き止めること、そして原因に応じた対処を行うことが大切です。
症状が見られる場合は早めに専門の医療機関を受診しましょう。