アルコールと高齢者の関わり

お酒にまつわる有名なことわざに「酒は百薬の長」があります。そしてそのあとに「されど万病の元」とも続きますね。毎日の楽しみとして晩酌をする高齢者も少なくないと思いますが、加齢に伴いアルコールを分解する身体機能が弱まるため、飲酒の仕方には注意が必要になります。
今回は高齢者とアルコールの関係について解説していきます。

日本人のアルコール耐性

一般的に日本人を含むモンゴロイド系(黄色人種)は、遺伝的にお酒が弱い傾向にあります。
というのも、通常アルコールが体内に入ると、肝臓でアルコール脱水素酵素(ADH)と、アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって分解、無害化されるのですが、この2種類の酵素のうち、主にアセトアルデヒド濃度が低いときに働く「ALDH2」において、日本人の約40%はその活性が弱い「低活性型」(酒に弱い)、さらに約4%の人は「不活性型」(お酒が飲めない)でALDH2の働きが全くない体質だからです。このALDH2の活性のタイプは、遺伝によって決まっており、後天的に変わることがないため日本人はお酒に弱い人の割合が多いのです。

飲酒をした際に低活性型、不活性型の人はアセトアルデヒドが体内でうまく分解されずに血管が拡張して顔が赤くなります。この肌の紅潮現象も、アジア系の人種以外ではほとんど見られず、アジアン・フラッシュなどと呼ばれているそうです。

アルコールに弱い日本人ですが、お酒との付き合いは長く、その起源は稲作文化の象徴ともいえる弥生時代にさかのぼるそうです。
とは言え、この時代の日本酒はあくまでも「神々に捧げるもの」であり、朝廷の宴でふるまわれるハレの日の飲み物でした。庶民が日常的に飲めるようになったのは、江戸時代に入ってからのことです。
この日本酒にはアミノ酸・ビタミン・ミネラル・有機酸などさまざまな栄養素が含まれており、特に、人間の身体に必要なたんぱく質の元となり、健康維持には欠かせない栄養素である「アミノ酸」は、アルコール類の中で日本酒にもっとも多く含まれています。

高齢者とアルコール依存

前述のように、そもそもお酒を分解する力が弱いとされる日本人にとって、高齢になってからその機能はさらに低下しますから、飲むお酒の種類や、量によってはリスクが伴います。

しかし、高齢者が過度にアルコール摂取、そして依存症になってしまうケースは数多く存在しており、これには老後の孤独な環境や生活面での特徴が影響していると考えられます。

高齢者がアルコールに依存してしまう背景
✅定年を迎え、社会的役割や仕事、目標などがない「むなしさ」から酔いを求めてしまう

✅子どもの巣立ちや配偶者、知人の死を体験することで「孤独」を生じ、酔いを求めてしまう

✅平日と休日の境目がなく、飲酒へのハードルが低い

✅喪失感や、抑うつなど人生後期における様々な困難に直面し、飲酒問題が生じやすい。

飲酒による健康面のリスク
✅多量に飲酒すると、利尿作用が働き、必要な栄養素が流れ出てしまう⇒骨がもろくなったり、脱水症状が起きやすい

✅酩酊すると、転倒の危険も高まり、高齢者は骨折などの大きなケガにつながりやすい

✅長年の飲酒習慣により脳が萎縮したり高血圧、脳梗塞などの大きな病気につながりかねない

✅アセトアルデヒドには発がん性が確認されており、アルコールを分解する力の弱い人は食道がん、乳がん、肝臓がん、胃がん、大腸がんといったがんを発症しやすいとされる

上手なお酒との付き合い方

高齢者においてはアルコール依存にならないようなライフスタイルを維持することが大切です。孤独な環境にいると歯止めが利かなくなってしまうこともあります。
家族や友人との交流、畑仕事、地域の社会活動など生きがいのある生活が健康寿命を延ばしますから、そうした中に組み入れられたコミュニケーションの酒やお祝いの酒などがまさに「百薬の長」になるのかもしれませんね。
自身の体にとって適切なアルコールの量を見極めた飲酒習慣に努めましょう。

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