年を取ると怒りっぽく愚痴が増えるのはなぜ?
街中で気持ちのコントロールができずにイライラしたお年寄りが店員を怒鳴ったり、愚痴っぽいことを口にする場面を見かけたことはないでしょうか。高齢者に限った話ではありませんが、老年期になると怒りっぽくなったり、愚痴っぽくなったりする傾向があるのも事実です。今回はそのメカニズムを解説していきます。
怒りっぽい、愚痴っぽい人の心理・特徴
人には個性があり、生まれ持った気質や、育ってきた環境など様々な要因で人格が形成されていきます。昭和の時代を生きてきた現在の高齢者は、時代背景からも周りから厳しく叱られることが当たり前だったのかもしれません。
逆に、甘やかされて育った場合にも我慢をすることができず、怒りの感情がコントロールできないわがままな人格になってしまうことがあります。
愚痴というのは、「言ってもしかたのないことを言って嘆くこと」です。
仏教用語に由来しており、「愚」も「痴」も「心理を理解する心がなく、おろかなこと」を意味します。そのほとんどが人間関係、他者に対する発言であり、自分を変える気がなく、他者に対して「自分に都合良く変わってほしい」という心理とも言えます。
そしてその根底に「自分は悪くない」という気持ちがあることから、「なぜ自分が苦労しなければならないのか」と改善の努力をしないことも特徴として挙げられます。
喪失を体験する高齢者
高齢者の心理状態において、キーワードになるのは「喪失」だと言われています。
1つ目は、配偶者や身近な友人の死に直面する「人間関係」の喪失体験。
2つ目は、仕事を引退したり、子育てから卒業することに起因した「役割」の喪失体験。
3つ目は、体力が落ちて思うように動けなくなったり、体のあちこちが老化して、病気がちになるといった「身体」の喪失体験。
このような喪失体験に向き合っていく老年期は、心が非常に不安定になりやすい年代なのです。
怒りの感情は人を傷つけるため、エスカレートすると周りの人は次第に距離を置くようになってしまいます。愚痴の多い環境にいると、相手も巻き込んで陰鬱な気分にさせてしまうため、やがては人に疎んじられてしまうかもしれません。このようなスパイラルから、孤独になり、不満を溜め込むことが続くとゆくゆくはうつ病を発症し、生きていくことに希望を見出せなくなって、生きる気力を失っていく人も少なくありません。
前頭葉の機能低下
怒りっぽくなる要因には喪失体験のほか、前頭葉の機能低下によるものも考えられます。
前頭葉とは、大脳の前部分にあって「運動」「言語」「感情」をコントロールしています。この前頭葉に障害が起こることで人格の変化や社会性の欠如、記憶力、判断力の低下といった様々な症状が現れることがあります。
記憶や意欲など感情の働きとも深く関係する前頭葉は、脳の中で最も老化が早いといわれており、一般的に、前頭葉の萎縮は40代から徐々に見られ始め、60代、70代でさらに加速します。前頭葉が萎縮すると、相手の感情を推し量ったり、共感したり、感動するといった感情の働きが鈍化し、意欲が低下します。人とのコミュニケーション能力や、社会性、理性を司るなど重要な役割を持っている部位ですから、その機能が低下すると、論理的思考と、理性のコントロール能力も低下してしまうのです。
頑固でわがままな高齢者が多いと言われる原因は、加齢による脳の機能低下に伴って、いくら正しいことを説明してもその理屈が通らずに感情の赴くままに怒りの感情をぶつけてしまう人が増えてしまうからかもしれません。
前頭葉の機能低下を予防するには、わくわくする体験をするのがいいとされています。これは、思いもよらないこと、先が読めない事が起こることで、血流が増加し、前頭葉が活発に動くようになるためです。例えば初めて会う人と対面して会話する時にも、その人を理解しようと前頭葉が活発に動くそうです。定年後は家族以外の人と会う機会もめっきり減ってしまいますから、自分なりの趣味を見つけてコミュニティを作るのもいいかもしれません。
高齢者との付き合い方
怒っている高齢者と向き合うことは、対応する側の心もすり減ってストレスとなりますよね。
不満や愚痴、批判の話題には、それに代わる楽しい話をこちらから投げかけてみてはいかがでしょうか。また、機嫌の良いときに小さな頼みごとをして、喪失していた役割を与え、成功体験や頼られる体験を意図的に提供するのも効果があるかもしれません。
結果的に介護する側が我慢をすることになってしまいますが、自分が悪いから怒っているのではなく、前述した様々な要因によって、加齢に伴い怒りっぽくなる人もいるんだ、脳の萎縮による作用かもしれない、と割り切ってしまうことで少し心が軽くなるかもしれませんよ。