ペットを取り巻く飼い主の高齢化
ペットと一緒に暮らすことは、高齢者にとってさまざまな健康効果があります。
一方で、生き物と暮らすことは飼い主として責任が伴うものです。
今回は、ペットと高齢者の生活について、メリットやデメリットをお伝えしていきます。
ペットが高齢者に与える健康効果
犬や猫をはじめとするペットは、高齢者に5つの健康効果をもたらすといわれています。
①幸せホルモンの分泌
ペットと見つめ合うことによって、人間の体内では幸せホルモンとも呼ばれる「オキシトシン」が分泌されます。このオキシトシンは、子供やペットなど他者と触れ合ったときに多く分泌されるもので、脳に幸せを感じさせる、気持ちを穏やかにさせ心を癒す、身体の痛みを和らげる、といった効果があると言われています。
人の心の動きを機敏に感じ取りそっと寄り添う犬や猫は、高齢者にとって大きな癒しの存在となってくれます。
②話し相手となる
ペットと暮らすことで、名前を呼んで話しかける機会が増えます。高齢者に発語の機会をもたらすことは、身体機能の維持にも重要なことです。
また、ひとり暮らしの高齢者は、他者とのコミュニケーションの機会が少なくなりがちですが、散歩の必要がある犬を飼っている場合、近所を歩くことで地域の人と顔見知りになる機会が得られるかもしれません。引きこもりの予防にもつながります。
③1日のリズムができる
決まった時間にペットにエサを与え、その後トイレ掃除の世話をする、といった流れを作れば、自然と規則正しい生活が送れるようになります。
先ほども出てきたように、ペットが犬であれば、散歩が日課となります。
日中の運動量が増えることで、自身の夜間の睡眠も保たれます。体力が維持されるという効果も期待できるかもしれません。
④認知症の予防
「何時にえさをあげるのか」「どのくらいあげるのか」といった世話を日常的に繰り返していると、自然と記憶力が向上します。
高齢になり身体能力が衰えると、他者の手助けを受ける機会が多くなりますが、そのなかで能動的にペットの世話をすることは、高齢者に自尊心を芽生えさせます。「自分がやらなければ!」と役割を持つことで、自立した生活を維持することにもつながります。
⑤五感が刺激される
ペットの動きを追う(視覚)、鳴き声を聞く(聴覚)、体を撫でる(触覚)など、一緒に暮らすことで、ペットは常に高齢者の五感を刺激してくれます。
癒しの存在であると同時に、高齢者の脳の活性化に効果的な存在であるといえます。
ペットと高齢者における問題点
✅自身の体力が衰え、ペットの世話が負担になる
✅自身の急な入院により、ペットの世話ができなくなる
✅認知症の影響で、エサやりを忘れてしまう・病気に気づけなくなってしまう
✅ペットが亡くなった時のショックで元気がなくなる
ペットを飼い始めた時は問題がなくても、衰えとともに上記のような問題点が浮上します。
今は大丈夫と思っていても、転倒事故や体調不良はいつ起こるかわからないものです。
近年は、高齢者の突然の入院でペットが取り残されてしまうケースも増えています。また、介護保険サービスのひとつである訪問介護では、利用者を対象とした支援しかおこなえません。同居家族やペットへのサービスは、対象外であることも覚えておきましょう。
人間に癒しを与えてくれるペットも、命ある生き物です。住環境や食べるものの改善によって、犬や猫の寿命も長くなっています。一緒に暮らす際は、これらの問題点をふまえたうえで飼育を検討する必要があります。
検討しておくべき項目
✅もしもに備えてケージに慣れさせる
普段からケージに慣れさせておくことで、訪問介護員が訪れるときの事故を防ぎます。
また、動物病院に連れていったり、一時的に誰かに預けたりするときにも役立つため、普段から中に入る練習をしておくことが望ましいと言えます。
✅世話ができなくなった時の預け先を考えておく
免疫力や体力が低下しがちな高齢者は、健康に問題が起こるリスクが高くなります。ペットを飼う際は、自分で世話ができなくなったときのことを考えておきましょう。
今は体力に自信があっても、何らかの病気をきっかけに日々の世話が大変になるかもしれません。入院が必要になった場合に備え、一時的な預け先を見つけておくと安心です。親戚や知人のほか、ペットシッターやペットホテルも預け先として考えられます。
また、長期的に世話ができなくなったときの備えとなるのが「ペット信託」です。相談先は行政書士や保険会社となるため、さまざまな方面から万が一の備えを検討しておきましょう。
ペット可の高齢者施設
大切な家族の一員としてペットを可愛がる方も増えており、「ペットと一緒に入居可」という民間の高齢者施設も増えてきています。
ただし、このような施設では、原則的にペットの世話自体は本人が全ておこなうことになっています。
ヘルパーさんは飼い主さんの介護をすることはあっても、ペットに関しては業務の範囲外となるためです。また、このような施設の料金は一般よりも高く設定されている傾向にあります。
資金面の計画を立てながら共に生活していくことが重要です。
まとめ
ペットを飼うことは、高齢者にとって日々の生活に生きがいをもたらす効果がある反面、金銭的、身体的にも懸念すべき点が多くあることが分かったかと思います。
大切な命ですから、もしものことを考えた環境を整えていきましょう。