レビー小体型認知症

「認知症」とは、加齢や脳の病気などによって神経細胞の働きが徐々に低下し、認知機能(記憶、判断力など)が欠如することで社会生活に支障をきたした状態をいいます。
認知症の原因にはいくつかの種類があり、幻視や幻聴の症状が強い場合は、「レビー小体型認知症」の可能性もあります。
今回はこのレビー小体型認知症について解説していきます。

認知症の種類

冒頭でお伝えしたように「認知症」は認知機能の低下によって生活に支障をきたしている状態を指しますが、認知症自体は病名ではなく、いくつかの症状や所見が一連のものとして認められ、経過や予後などを含め特徴的な様子を示す病的な状態に対して命名される「症候群」のひとつです。

認知症の中でもっとも多いとされているのは、アルツハイマー型認知症です。
アルツハイマー病は、脳の中にアミロイドβというたんぱく質が溜まり、正常な脳の神経細胞を壊して脳を萎縮させてしまう病気です。これに伴い認知機能に低下がみられるのがアルツハイマー型認知症と呼ばれます。

日本人の認知症の50%以上はアルツハイマー病が原因であると考えられています。

次いで2番目に多い認知症が、「レビー小体型認知症」です。
レビー小体とは、神経細胞にある「封入体」と呼ばれる異常な構造物のことで、患者の脳内に、このレビー小体がたくさん見られることからこの病名がつきました。

厚生労働省研究班の疫学調査によると、全認知症のうち4.3%がレビー小体型認知症とされています。*1

この他、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの脳卒中が原因となって起こる脳血管性の認知症があります。

レビー小体型認知症の症状

レビー小体型認知症における症状の特徴として、認知機能の障害を主体とし、運動症状や自律神経症状、睡眠障害といったさまざまな症状が現れるとされています。

レビー小体は、私たちの神経細胞にあるα-シヌクレイン(alpha-Synuclein)というたんぱく質が集まり、固まってできた異常構造物です。
α-シヌクレインは、神経細胞と神経細胞のつなぎ目であるシナプスというところに存在しており、何らかの理由で異常に集まって固まってしまうと、レビー小体となります。
このレビー小体によって神経細胞が傷つけられ、神経細胞が壊れると、認知症が引き起こされます。

レビー小体は加齢に伴って生じやすくなり、65歳以上の高齢者の3分の1は脳にレビー小体を持っているとされています。

ただし、レビー小体がなぜ出現するのかは、まだ完全には明らかになっていません。通常のレビー小体型認知症では、遺伝的因子と環境的因子が絡み合って出現しやすくなると考えられており、その原因について研究が進められています。

レビー小体型認知症は、認知症を中心として、以下に挙げる特徴的な症状(中核的特徴)が見られます。

認知機能の変動

日によって、あるいは時間帯によって認知機能の状態が変わるという特徴がよく見られます。
たとえば、昨日は意思疎通ができていたのに、今日は会話も難しい、といった状況です。
ご自身の置かれている状況をある程度理解できる時期と、混乱している時期とが交互に現れます。

具体的な幻視を繰り返す

「人が立っている」「天井を虫が這っている」など、現実にはいないはずの人物や動物、虫などが、あたかも目の前に存在するかのように浮かんで見える幻覚の症状が見られます。
また、同様に幻聴の症状が現れることもあります。

パーキンソニズム

動作が遅くなる(動作緩慢、無動・寡動)、手足や体幹がこわばる(筋強剛)、手足がふるえる(振戦)、倒れやすくなる(姿勢保持障害)という症状の総称です。

このような運動系の症状がみられるのも、レビー小体型認知症の特徴となります。

レム期睡眠行動異常症

脳は活動している一方、体は休んでいるという睡眠段階をレム睡眠といいます。
夢を見るのもレム睡眠のタイミングです。
通常、人が夢を見ているときは体が動かないように調整されていますが、レビー小体型認知症の場合、眠っていても激しく体を動かすことがあります。

これは、追いかけられたり、暴力を振るわれるような悪夢を見ていて、夢の中での行動がそのまま現実に現れている状態と考えられています。​

自律神経症状

レビー小体型認知症の原因となるレビー小体という物質は、脳だけでなく、皮膚や消化管に存在する自律神経にも出現します。
そのため、自律神経と深く関わる便秘や尿失禁、異常な発汗、だるさ、起き上がったり立ち上がったりしたときの急な血圧低下によって立ちくらみを起こす起立性低血圧などを起こすことがあります。

レビー小体型認知症の治療

レビー小体型認知症の治療には、大きく分けて薬物療法と非薬物療法があります。

薬物療法

レビー小体そのものの根本的な治療は、残念ながら現時点では解明されていません。
そのため、対症療法として脳で足りなくなった物質を補うような治療が行われ、実際に起きている症状を和らげる薬が処方されます。

非薬物治療

レビー小体型認知症では、パーキンソニズムのような運動症状をはじめとして、さまざまな症状が見られるため、リハビリテーションやケアなどの非薬物療法も重要な治療手段となっています。

たとえば、有酸素運動や柔軟体操などを行うことで、筋力の維持や転倒を予防するとともに、脳の活性化も期待できます。
また、日常生活でパズルを解いたり、家族や周囲の方と関わったりすること、デイケア、デイサービスなどを利用しリハビリや環境整備をしてよい生活のリズムをつくることなど、いきいきとした生活を送ることにつながります。

まとめ

今回はレビー小体型認知症についてお伝えしました。

記載した症状に自身が当てはまったり、ご家族にいらっしゃる場合には、早めに医療機関に相談し、適切な治療や対応を検討していきましょう。

参考
*1厚生労働科学研究費補助金疾病・障害対策研究分野認知症対策総合研究
「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」平成23年度~24年度総合研究報告書

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